新大陸発見後、交易が盛んになった18世紀中ごろより、アメリカ大陸から様々な病害がヨーロッパにもたらされた。うどんこ病、べと病、フィロキセラがそれである。ヨーロッパのブドウは、これらとは隔絶された環境で進化してきたため、これら病害への耐性を保有していない。様々な研究が行われ、これらの病害への対処法がみつかり、ブドウ樹は生き延びることができて、今でもおいしいワインを飲み続けることができている。しかしながら、うどんこ病やべと病に対して、ブドウ樹を延命させるには、農薬を散布しなければならない。これが、イオウや硫酸銅を恒常的に撒き散らすことになり、自然破壊につながってきた。
病害対策の研究において重要だったことは、アメリカ大陸に自生しているブドウは、これらの病害の影響を受けていないことである。アメリカブドウの病害耐性の特性をヨーロッパブドウに取り込めれば、病害を恐れずにブドウを生育させられることになる。これは、遺伝子レベルでも解明されつつあり、うどんこ病(Run1, Ren1,Ren3, Ren9等)やべと病耐性(Rpv1, Rpv3, Rpv10, Rpv12)が遺伝子レベルで特定されてきた。こういった耐性遺伝子をヨーロッパブドウに組み込めばアメリカブドウと同様の生育特性を示し、病害も寄せ付けないことにつながる。
最初は、アメリカブドウとヨーロッパブドウのハイブリッドをつくることで、結果的にアメリカブドウの耐性遺伝子を、ハイブリッド種に受け継がせることを試みた。このとき、セイベル、ヴィダルといった品種が作出された。しかし、これらのハイブリッド種はおおむね不味かった。ブドウには不快な食味が残り、人々はヨーロッパブドウに農薬などを投入した商品を選択した。
交配時には、複数の耐病性遺伝子が残っていること(ピラミダイゼーション)は、病害の原因となるウィルスの突然変異にも対応できるので推奨されている。したがって、最近作出された耐病性のある品種には、複数の耐性遺伝子が継承されていることの確認が行われている。
芳香性に対応する遺伝子の研究も進みつつある。モノテルペンを合成する遺伝子(DXS1)、チオール前駆体蓄積に関与する遺伝子(GST)などが特定されてきた。私は当初、耐病性遺伝子と食味の不味さは表裏一体で、新品種に耐病性遺伝子が残っている限り、ヨーロッパブドウの美味しさを越える品種の作出はできないと考えていた。実際、多くの植物では、成長と防御はトレードオフの関係にある。一部の耐病性遺伝子と不快な香りの遺伝子は近接しているため、両者を合わせて選抜してしまうことも多かった。
しかし、繰り返しViniferaを交配させる戻し交配を行うことで、不快な形質を取り除ける場合も出てきた。アメリカブドウとヨーロッパブドウを掛け合わせると、それぞれの遺伝子が半減する。そこで近年では、都度耐性遺伝子の有無を確認して、病害耐性が継承されたハイブリッド種を選抜している。そして病害耐性があるハイブリッド種にさらにヨーロッパブドウを交配させると、アメリカブドウの遺伝子は25%、ヨーロッパブドウの遺伝子は75%となる。食味に定評のあるヨーロッパブドウの遺伝子比率が高まれば食味も増すことになる。このハイブリッド種にさらに同様の交配を繰り返し行うこと(戻し交配)で、ヨーロッパブドウの比率は87.5%、93.75%、96.875%と上昇する。これでブドウの美味しさが増していると考えられている。
近年作出されたPiwiやResDurにおいては、いかにして芳香性の遺伝子を継承させられるかに焦点を絞り、耐病性が共存できているものを選抜しているとのこと。ResDurのFloreal、Voltis、PiwiのSouvignier Gris、Sauvignac、Cabernet Blancなどは代表的な品種である。これらに、あるいはこれらの後継品種に期待したい。














