生物学におけるクローンとは同じ遺伝子配列を持つものを指しますが、ブドウにおいては同じ株を起源とするブドウ樹のことで、必ずしも遺伝子配列が同じとはなりません。
植物の増殖方法には2通りあって、種子から育てる場合と取り木から育てる場合があります。前者の場合、元の品種とは異なる品種が生まれますが、後者の場合は品種特性は継承されます。したがって、ブドウ品種が同じであれば、過去のどこかの時点で祖先は同じはずです。取り木した場合も突然変異が発生しますが、交配した場合に比べると遺伝的な特性の変異はわずかです。
品種が生まれてから長い年月を要した場合や、異なった環境で生育した場合に特にクローンによる個体差が顕著になってきます。これをもとにブドウの品種におけるクローンの重要性を考えると、歴史の長いピノノワール、カベルネフランなどがクローン間の差異が大きくなる可能性をはらんでいると言えます。一方、歴史の浅いカベルネソヴィニョン、シャルドネなどはクローン間の差異は限定的です。
極め付けはグルナッシュと私は考えています。この品種は古くからフランス(グルナッシュ)、スペイン(ガルナッチャ)、イタリア(カンノナウ)で栽培されてきましたが、出自はスペインかイタリアと言われています。1500年頃にはスペインで栽培されていたと言われていますが、3200年前にイタリア・サルジニア島の遺跡からブドウの種が発見されました。グルナッシュ、ガルナッチャ、カンノナウは同一品種でありながらクローンの異なる極めて古い代表例かもしれません。
写真:左からグルナッシュ、カンノナウ、ガルナッチャの代表ワインで、全て単一品種100%