伝統的な植物育種では、理想的な形質を持つ植物の交配を繰り返して、各段階で期待できる子孫を選抜していきます。しかし、この育種は交配を伴うため、特定のブドウ品種に大きく依存しているワイン市場のブドウ樹では困難です。ブルゴーニュではピノ・ノワールとシャルドネ、ナパ・ヴァレーではカベルネ・ソーヴィニヨンが主要品種であり、そこから離れるのは容易ではありません。
同じような例が、ニュージーランドのマールボロです。ソーヴィニヨン・ブランで成功を収めており、30,000haのブドウ畑のうち約80%でソーヴィニヨンが栽培されていますが、そのほとんどがUCD1として知られる単一クローンに依存しています。再選抜をしてMS(マサル選抜株)としても売られています。この単一品種、単一クローンへのこだわりは、将来起こる変化への地域の適応力を制限しているのです。ブドウの品種を維持しながら、土地や気候の変化により適したブドウ樹を見つけたいのであれば、クローン選抜が唯一の選択肢となります。自然界に存在する遺伝的多様性は、このクローン選抜の原型です。
そこで、2022年にブレナム(マールボロの主要都市)のブラガート研究所で研究プロジェクトが開始されました。このプロジェクトは、ソーヴィニヨン・ブランのストレスに適応する能力を利用して新しい遺伝物質を生成させ、遺伝的多様性の観点からより望ましい要素を選抜したソーヴィニヨンの新クローンを生み出そうとするもので、気候変動を含む将来の課題に適応できるブドウ畑を造ることを目指しています。これらの新クローンは、生産性を向上させ、より優れた耐病性を示し、水分の利用効率を向上させるかもしれません。
