グリホサートは、世界中のブドウ畑で最も一般的に使われている除草剤の一つです。安価で浸透性が高く、雑草対策が大きな課題であるブドウ栽培では欠かせない存在となっています。ニュージーランドのブドウ栽培コンサルタント、マーク・クラスナウ博士によると、「ほとんどのブドウ畑で除草剤が使われており、その多くがグリホサートです」とのことです。しかし、使用の安全性や環境への影響をめぐっては意見が分かれています。
グリホサートは土壌中に残留し、金属イオンと結合して植物の栄養吸収を妨げる可能性があると指摘されています。オレゴン州の栽培者ミミ・カスティールは、グリホサートの散布により一部が土壌に浸透し、分解後もアミノメチルホスホン酸(AMPA)という物質として長く残ることを問題視しています。これらの化合物は、植物の成長に必要なミネラルを利用しにくくし、酵素の働きを弱めるとされています。また、ブドウの免疫力を下げ、病害(ボトリティスなど)を広げる可能性も指摘されています。
さらに、土壌動物であるミミズの減少も報告されています。ミミズは土壌の通気や栄養循環に重要な役割を果たしますが、グリホサート散布地では個体数の減少が確認され、土壌生態系への影響が懸念されています。
一方、バイエル社は「グリホサートは微生物によってすぐに分解されるため、長期的な影響は少ない」と反論しています。ただし、使用を続けるうちに耐性を持つ雑草が現れ、除草効果が低下している地域もあります。ニュージーランドでは、すでにライグラスが耐性を持ち始めており、今後さらに拡大する可能性が指摘されています。
もしグリホサートが禁止されれば、除草作業のコストが増し、収量の減少やワイン価格の上昇につながると懸念されています。結果的に、消費の減少やブドウ畑の縮小につながるおそれもあります。グリホサートの使用をめぐる議論は、環境保全・経済性・科学的根拠のバランスをどう取るかという、持続可能な農業の在り方を問う問題でもあります。
(写真は、グリホサートを使用していないラグフェイズの母樹畑。成木になると雑草との共存が可能な場合もあります。)
詳細は、『新ブドウ栽培学』第17章に記載されています。