ピノ・ノワールとムニエ

ムニエは、分類学的には品種ではなく、ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ピノ・ブランとともに、ピノブドウ品種のクローンです。これらは全てピノ・ノワールの突然変異の結果ですが、ムニエに引き起こされた突然変異はおそらく最も興味深いものです。

ムニエは、見た目がとても変わっています。ブドウ畑では、葉を覆う細い毛が銀色の光沢を放っているので、すぐに見分けることができます。葉に小麦粉がまぶされているように見える品種であることから、フランス語で「粉屋」を意味するムニエという言葉に由来しています。

植物には、茎頂分裂組織と根端分裂組織の2つの主要な分裂組織があります。これらは、未分化細胞の分裂が続いている領域であり、それが植物のさまざまな部分を形成しています。ブドウ樹の茎頂端分裂組織には2つの層があります。第1層は植物の表皮を形成し、ここでの細胞分裂は1方向の平面(植物の表面に対して垂直方向)で発生します。第2層は植物の残りの部分を形成し、細胞分裂は2方向の平面(表層に対して水平方向及び垂直方向)で発生します。

これらの層の一方だけに突然変異が起きると、2つの細胞層に遺伝的差異があるキメラ現象と呼ばれる状態になることがあります。これがムニエで発生したものです。キメラは、遺伝的に異なる細胞の組み合わせで構成される植物または植物の一部であり、ムニエは遺伝的に異なる2つの分裂組織層に由来する組織からなります。外層であるL1がGAI1と呼ばれる遺伝子に変異を起こしており、この細胞層はジベレリンと呼ばれる植物ホルモンに反応しません。しかし、内層であるL2にはこの変異がなく、ジベレリンに反応します。このようにしてできたブドウ樹は、遺伝的に異なる表皮層(GAI1で突然変異が発生したもの)を持つピノ・ノワールなのです。

2002年、権威ある科学雑誌ネイチャーに掲載された論文で、ポール・ボスとマーク・トーマスはとても興味深い実験について記述しています。彼らはムニエの2つの層からそれぞれいくつかの細胞を採取し、体細胞胚発生として知られるプロセスを経て、2本のブドウ樹を生み出しました。ひとつは第2層のもので、ピノ・ノワールと見分けがつきませんでした。もうひとつはGAI1変異を持つ第1層からのもので、とても珍しいブドウ樹を生産しました。このジベレリンに反応しないブドウ樹は矮性(親のブドウ樹よりもはるかに小さい)で、通常は巻きひげがあると思われる芽に沿って花房が現れました。

この実験結果は二つのことを示しています。第一に、ジベレリンがブドウの開花を阻害すること。第二に、ブドウの巻きひげは変化した花序であり、ジベレリンによって花としての発達が妨げられていることです。この「小ぶりなブドウ樹」は研究用で、サイズが小さく、花房が過剰に生産される(そのため、生育期を通して果粒の発達を研究できる)ことが有用な特徴となります。L1層とL2層の両方が遺伝的に異なるため、その結果、ピノ・ノワールの表現型(品種的にはピノ・ノワール)が外層のジベレリン応答性の欠如によって変化したキメラ体であるムニエが生まれました。

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