ブドウ樹は成長が遅く、植えてから3年目に初収穫を迎えます。この頃のブドウは意外に良質ですが、その後しばらくは不安定な時期が続きます。樹齢10年ほどでようやく土地の個性を表すようになり、20年で成熟します。しかし収量が減るため、多くの畑では25年ほどで植え替えが行われます。
一方、優れた生産者が注目するのは、この「古木」と呼ばれる時期です。南アフリカでは樹齢35年以上、オーストラリアでは100年以上を古木と定めています。スロベニア・マリボルには樹齢400年以上のブドウ樹があり、今も少量のワインが造られています。
古木が高く評価されるのは、ブドウ樹のバランスが取れているからです。葉と果実の成長が自然に調和し、凝縮感のある風味と十分な熟度をもつブドウを実らせます。また、根が深く広がっており、土壌の水分や養分を効率的に吸収します。太い幹や根に蓄えられた炭水化物が春先の成長を支えるため、安定した生育が可能になります。
さらに、古木は長年の環境に適応する過程で「エピジェネティクス」という遺伝子発現の変化を起こしている可能性があります。これにより、その土地に最適なブドウを実らせる能力を身につけているのかもしれません。
(写真は、ラグフェイズの古木。樹齢25年程度)
詳細は、『新ブドウ栽培学』第8章に記載されています。